日本足の外科学会 The Japanese Society For Surgery Of The Foot

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医療関係者

足の腫瘍・腫瘍類似疾患のQ&A

足の腫瘍や腫瘍に似た疾患の症例をQ&A方式で紹介します。

実際のMRI画像なども掲載しています。

Q.1 母趾の腫瘍

80代女性。母趾に腫瘤が出現し急激に大きくなっている。腫瘤直上の皮膚の変色がもともと存在した。潰瘍や出血は認めない。

母趾MRI【①.T1強調冠状断像】【②. STIR冠状断像】を提示する。

間違っているのはどれか?
a.表皮由来の腫瘍である
b.直ちに生検を行う必要がある
c.全身のどこにでも発生する
d.CTによる全身検索は必須である
e.T1強調像で信号が高い場合もある
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答え:b.
直ちに生検を行う必要がある

MRIを見ると、腫瘍は表皮から連続する腫瘍性病変であり突出するような形態を示している。母趾の脂肪組織の信号上昇が帯状に認められるものの深部への浸潤傾向はまだ少ない状態である。T1WIでは本症例の腫瘍は信号が均一に低く、高信号ではない。

皮膚の変色がある足部発生の皮膚病変で急激に大きくなった既往より悪性黒色腫が考えられる。メラノサイトの悪性化のため、内臓含め全身のどこに出現してもよいが、足部は比較的好発部位である。黒子が存在している部位に発生しやすい。急速に進行するため、CTによる転移検索は重要である。

MRIでは腫瘍の局所浸潤の程度を観察するのにとどまる。悪性黒色腫の場合ではメラニンの含有量によってT1WIで信号が高くなる傾向がある。

Q.2 足関節・足背部の腫脹

60代男性。足関節、足背部に腫脹があり数ヶ月継続している。軽度の痛みはあるが発赤や熱感はない。足関節単純X線写真正面像・側面像、足関節MRI STIR矢状断像および造影後脂肪抑制T1強調矢状断像を提示する。

診断は何か?

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答え:
結核性足関節炎・骨髄炎

足関節単純X線写真正面像・側面像では足関節周囲の軟部腫脹が非常に目立っている。また関節面に沿った骨密度の低下もあり脱灰が進行している状態である。明らかな骨びらんや骨破壊像は指摘できない。関節裂隙の狭小化はわずかに認められる。画像上は足関節炎を疑う所見である。

足関節MRI STIR矢状断像では距骨を中心に強い骨髄信号上昇を認める。炎症による強い骨髄浮腫と考えられる。また脛骨天蓋部や舟状骨と言った距骨と関節面を呈している骨にも関節面に沿った信号上昇があり浮腫がある。足背部皮下脂肪組織の腫脹も著明であり炎症は弓が疑われる。造影後脂肪抑制T1強調矢状断像では足関節の滑膜の強い増強効果が認められる。滑膜の厚みや増強効果は均一であり、比較的活動性のゆるやかな炎症が長期にわたって存在していると考えられる。距骨の脛骨関節面、舟状骨なども強い増強効果を示しており、骨髄炎・関節炎に一致する所見である。関節内には膿瘍と思われる液体貯留も存在している。これらの画像所見より慢性的な炎症を呈する疾患であり、結核性関節炎・骨髄炎と考えられる。

結核性足関節炎・骨髄炎について

結核性関節炎の好発部位は股関節や膝関節であり、足関節や足部発生は比較的まれである。足関節・足部の場合では踵骨に好発し、その他距骨、第一中足骨、舟状骨などで認められる。画像上は関節リウマチのような滑膜疾患、サルコイドーシスのような慢性肉芽腫性病変との鑑別を有する。関節リウマチは多関節炎の形態を取るが、結核性関節炎の場合では単関節炎の形態を取るとされ、診断の一助となる。またサルコイドーシスは足の第一基節骨に好発するとされ、結核性足関節炎・骨髄炎とは分布が異なることに注意する。

結核性関節炎が存在すると、肺結核の合併も多いが、必ずしも肺病変が活動性とは限らないことに注意する。

単純X線写真ではPhemister 三徴(①関節周囲濃度低下 ②関節辺縁の侵食像 ③緩徐な関節裂隙の狭小化)が特徴とされるが、早期所見とは言えない。

以下の画像は蛇足だが、粟粒結核はこのような画像所見を呈する。参考程度に。

Q.3 足底の腫脹

  • 16歳女性、3カ月前より足底の痛みを訴えていた。歩行時に当たって痛い。複数のクリニックを受診したが診断がつかないため紹介となった。
  • 右足底第3趾の中足趾節間関節部の足底に軽度の腫脹があり圧痛を伴う硬結を触れた。MRI検査を行った。
  • MRI所見:第3趾の基節骨のlevelで、足底側の皮下に、9mmの腫瘤を認めた。辺縁は被膜状に低信号を示しており内部はT1強調像で筋肉より高信号、T2強調像でやや高信号を示した(図1)。内部では造影増強効果は見られない。Gdで辺縁が造影された(図2)。
  • 腫瘍の直上を切開で腫瘍を摘出した(図3)。

診断は何か?

  • 図1
  • 図2
  • 図3
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答え:
類表皮嚢腫

皮膚の下に袋状の構造物ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)と皮膚の脂(皮脂)が、剥げ落ちずに袋の中にたまってできる嚢腫状病変である。足底の荷重部に好発する。足趾間にも発生する。一般には外傷により表皮が皮下に迷入し表皮組織から生ずる内容により腫瘤が形成されると考えられている。足底の場合は、微細な外傷さらには、乳頭腫ウイルス(human papillomavirus, 以下HPV)感染が発生に関与していると報告されている。足底の荷重面に病変があるため、歩行時当たって痛いということで来院されることが多い。足底の病変の場合は、その特徴的な部位、硬さから、本疾患を知っていれば推測可能な疾患である。画像検査ではエコー検査、MRIが有用である。

MRIではT1強調像にて筋肉と等信号~やや高信号、T2強調像にて高信号もしくは高信号と低信号の混在を呈する。内部に蛇行する線状ないし不定形構造物を認めることがある。被膜は薄い低信号域を呈し造影効果を認める。内部には造影効果を見られないのがポイントである。STIR像にて病変周囲に高信号域がみられる。超音波検査では内部は不均一なやや高エコーを呈し、音響増強を認める。

足部の場合、診断がつかず放置されることも多い。放置しても通常治ることはない。急に腫脹したり発赤、痛みが生じる場合は、感染が考えられる。更に放置すると破裂し化膿した内容物が漏出し治療が難渋する。炎症を繰り返し、切開処置を繰り返すと周囲が瘢痕化して摘出が困難となる。荷重部位に発生するため、日常生活にも支障をきたしている場合が多いので、摘出術を行う。足底神経を損傷しないよう十分注意しながら袋全体を遺残がないよう切除する。

表皮嚢腫は頭頚部や背部に好発し、組織学的には顆粒層を有する重層扁平上皮に覆われた嚢胞が真皮~皮下に形成され、内部には層状の角化物を容れている。表皮と嚢胞壁が連続し、開口している場合もある。嚢腫壁が破裂すると周囲に角化物や脂質成分に対する異物反応により高度の炎症が引き起こされる。表皮嚢腫は別名漏斗部嚢腫とも呼ばれ、毛包漏斗部の拡張が成因とされている。しかし、足底など無毛部にも表皮嚢腫が生じることがあり、この場合は外傷を誘因とした表皮の陥入によると想定されている。また、足底の表皮嚢腫からHPV57/60の検出が報告されており足底表皮嚢腫の成因としてHPV60感染によるエックリン汗管の類表皮化生が提唱されている。(明日の足診療シリーズⅡ 足の腫瘍性病変・小児疾患の診かた 日本足の外科学会監修 全日本病院出版会)

Q.4 母趾底側の無痛性腫脹

  • 61歳男性 一年以上前に歩行時の右母趾底側の違和感に気づいた。痛みもないので様子を見ていたが、腫脹は徐々に増悪し、右母趾底側外側のしびれ感が出てきたため、紹介来院した。診察上右母趾基節部の弾性腫脹があり外表性の所見はなく(図1)、同部に圧痛はなかった。右母趾外側固有底側趾神経領域の感覚低下があった。
  • MRI所見:T1強調画像では、右母趾基節骨底側に長母趾屈筋腱を取り囲む様に筋組織と等信号の腫瘤があり、T2強調画像では、低信号の腫瘤内に高信号領域が淡く混在している。ガドリニウム造影T1強調脂肪抑制像では、低信号腫瘤内に索状に造影される高信号領域が描出される(図2)。
  • 手術所見では白色弾性硬で光沢のある分葉状腫瘍であり(図3)、深層にて母趾外側固有底側趾神経を圧迫していた。

診断は何か?

  • 図1
  • 図2
  • 図3
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答え:
腱鞘線維腫

腱鞘線維腫は、腱鞘滑膜由来の線維芽細胞・筋線維芽細胞性良性腫瘍で、良性軟部腫瘍例の約1-2%と比較的まれな腫瘍であり、類似する腫瘍である腱鞘巨細胞腫の約1/3の頻度である。手・手関節の腱鞘に好発するが、大関節の関節内発生もある。足関節・足部発生は約10%程度である。20-50歳に好発し男性に多く、2cm径以上の摘出例は比較的稀であるが、無痛性であるため発見が遅れやすい部位特に下肢の大関節部での発症では、5cmを超える症例(図4)の報告も散見される。血流は乏しく白色で分葉状を呈している(図4)。手術摘出後の再発はまれではなく、再発率が24%との報告がある。MRI所見は、T1強調画像では低信号から等信号で、T2強調画像では低信号領域の中に疎な高信号領域が混在する。T1強調画像におけるガドリニウム造影では、疎な血管部分が造影される。病理組織学的に、豊富な膠原線維を背景に、スリット状の裂隙と繊細な毛細血管を伴って紡錘形細胞が疎に分布する(明日の足診療シリーズⅡ 足の腫瘍性病変・小児疾患の診かた 日本足の外科学会監修 全日本病院出版会より引用)。鑑別診断は、同じ腱鞘滑膜由来の良性腫瘍である腱鞘巨細胞腫であるが、発症部位・好発年齢・腫瘍の大きさ・無痛性・分葉形成・再発率などは類似している。腱鞘巨細胞腫が腱鞘線維腫と異なる点は、頻度が約3倍・女性に多い・ガドリニウム造影での均一な造影効果・黄色がかった腫瘍色調・病理所見である。

Q.5 足趾間の腫脹

50代女性。歩行時の痛みを伴う左足趾の腫瘤に気づく。左第2-3趾間に圧痛がある。知覚異常はない。左足部単純X線撮影(図1)では第2-3趾間が離れている。
引き続き行われた左前足部MRI(図2)を示す。

  • 図1
  • 図2
MRI所見で誤っているのはどれか?
a.病変は第2・第3中足趾節関節間にある
b.軟部組織の浮腫を認める
c.神経の腫大を認める
d.滑液包の腫脹を認める
e.骨に異常を認める
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答え:c.
神経の腫大を認める

MRIではT1強調像(図3-1)にて第2・第3中足趾節関節間に腫瘤状低信号域を認める(矢印)。T2強調像(図3-2)およびSTIR像(図3-3)では病変はやや足背側に突出し、被膜様構造があるようにみえる(小矢印)。さらに病変周囲にはSTIR像にて境界不明瞭な高信号域を認め、軟部組織の浮腫・炎症が疑われる。STIR像(図3-4)では第2・3基節骨基部、第3中足骨遠位の骨髄浮腫がみられる(矢頭)。関節液貯留はほとんどない。

足部の中足趾節関節間に軟部組織腫瘤を形成する病変としてモートン神経腫が知られている。第2-第3、第3-第4趾間に好発し、T1/T2強調像にて低~中等度信号を呈する腫瘤として認められる。足底神経の走行に沿ってみられ、ときに中足骨間滑液包に液体貯留を伴うことがある(明日の足診療シリーズⅡ 足の腫瘍性疾患・小児疾患の診かた 日本足の外科学会監修 全日本病院出版会)

本症例はモートン神経腫と似ているが、中足骨間滑液包の腫脹が主であり、病変周囲に広がる浮腫とともに近接した骨に骨髄浮腫を認める。骨病変はモートン神経腫では通常みられない。

本症例は中足骨間滑液包炎と考えられ、周囲に炎症の波及がみられることより、血液検査を行ったところ抗CCP抗体が高値であった。内科で関節リウマチによるモートン病様症状と診断された。

1年後のX線撮影(図4-1)では第3中足趾節関節内側に骨びらんが出現している(矢印)。MRIでは第2,第3中足趾節関節の関節包が著明に腫脹し内部にT2強調像(図4-2)にて不均一な中等度信号域がみられ、滑膜増生が疑われる(小矢印)。STIR像(図4-3)では第3中足骨に広範な骨髄浮腫を認める。関節リウマチの画像所見がより明瞭になったと考えられる。

Q.6 足背の有痛性腫瘤

16歳女性、足背に有痛性の腫瘤があり、紹介受診した。安静時痛があり、腫瘤の大きさは変動することがある。MRIでは第1・2中足骨間に、不均一に造影される病変が存在する(図1)。切除標本では、管腔様構造と血腫を認めた(図2)。

診断は何か?

  • 図1
  • 図2

図1、図2は明日の足診療シリーズより引用

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答え:
筋肉内血管腫

筋肉内血管腫は、30歳代までの若年成人に好発する。約半数が疼痛と腫脹を訴え、診察時に腫瘤を触知することが多い。皮膚の色調変化や熱感を伴う場合があり、大きくなると血管雑音が聴取されることもある。緩徐に増大し、経過中に出血や血腫などを生じることもある。病変内の血栓が石灰沈着すると、静脈石としてX線にて検出される。

無症候性もしくは症状が軽度の場合は経過観察が選択肢となる。痛みが続く、病変が増大傾向にある、機能障害があるといった場合に切除を検討する。(明日の足診療シリーズⅡ 足の腫瘍性病変・小児疾患の診かた 日本足の外科学会監修 全日本病院出版会より引用)

本症例では辺縁切除を行い、機能障害を残さずに疼痛は改善した。痛みを伴う軟部腫瘍の一つとして筋肉内血管腫を記憶しておくと、診療に有用である。