日本足の外科学会 The Japanese Society For Surgery Of The Foot

足のコラム

21Progressive Collapsing Foot Deformity

2019年にCesar de Cesar NettoとScott J. Ellisを中心としたコンセンサスグループが、「Adult Acquired Flatfoot Deformity (AAFD)」に代わる新しい用語として「Progressive Collapsing Foot Deformity (PCFD)」を提唱した。1)この新たな名称の提唱は、いくつかの理由に基づいている。

まず、AAFDにおける「Adult(成人期)」という表現が、疾患が成人に限定されると誤解を招く可能性がある点が指摘された。PCFDでは「Adult」を除去することで、若年者を含む幅広い年齢層の患者に対応できる。また、「Progressive(進行性)」という語を用いることで、疾患が時間の経過とともに悪化する特性を明確に表現している。従来の「Flatfoot(扁平足)」という用語は、疾患の一部の側面しか表していないが、「Collapsing(圧潰性)」を加えることで、足部の構造的崩壊や変形を強調し、より包括的に疾患の実態を示している。さらに、「Foot Deformity(足の変形)」という表現は、疾患が単なる外観上の問題ではなく、治療の必要がある医学的状態であることを強調するために選ばれた。これにより保険会社が「Flatfoot」を日常的な足のケアと見なして保険支払いを拒否するケースへの対策ともなる。日本では、「扁平足」の病名が保険支払いの拒否につながることは考えにくいが、海外ではそのような問題があるため、新名称の選定にはこれも理由として含まれている。

さらに「Posterior Tibial Tendon Dysfunction (PTTD)」という用語も用いられてきたが、これは疾患の一部の病態しか反映していないという問題がある。PTTDは後脛骨筋腱の機能不全に焦点を当てているが、PCFDは後脛骨筋腱のみならず、多様な支持機構の破綻を含む足部変形を包括的に示す概念である。

日本足の外科学会用語委員会では、この新しい用語に対応した和語の選定を複数回にわたり議論した。直訳型の「進行性圧潰性足部変形」や「進行崩壊性足部変形」も検討されたが、これらは専門性が高いうえに、「圧潰」や「崩壊」といった言葉が与えるインパクトが強すぎ、患者や一般医療従事者に不要な不安や誤解を与えるため選定には至らなかった。また、既存の「成人期扁平足」を使用する案も検討されたが、PCFDが年齢を限定しないことを考慮し、不適切と判断された。さらに、国際的な学術の統一性を計るためには、英語と日本語での用語が一対一対応することが重要であり、「PCFD」と「成人期扁平足」の対応が不一致となることで混乱を招く恐れがある点も否定要因となった。

最終的に、用語委員会は「進行性扁平足」を和語として選定した。この名称は、疾患の進行性と構造的変化を反映しつつ、一般に理解しやすいと評価された。「扁平足」という語は本邦において広く認識されており、患者や医療従事者にも受け入れられやすいという背景がある。

PCFDの名称提唱と合わせて、コンセンサスグループは変形の分類システムも提案しており、これは「PCFD分類」と呼称される。2)この「PCFD分類」は固有名詞として扱い、「進行性扁平足分類」とは訳さず、そのまま「PCFD分類」とすることが推奨される。

1)
de Cesar Netto C, Deland JT, Ellis SJ. Guest Editorial: Expert Consensus on Adult-Acquired Flatfoot Deformity. Foot Ankle Int 2020;41:1269-71.
2)
Myerson MS, Thordarson DB, Johnson JE, Hintermann B, Sangeorzan BJ, Deland JT, et al. Classification and Nomenclature: Progressive Collapsing Foot Deformity. Foot Ankle Int 2020;41:1271-6.
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