17SupinationとPronation
足関節・足部の運動方向を表す用語は国際的にも統一されておらず、特に、“内がえしinversion/外がえしeversion”と、“回外supination/回内pronation”がどのような動きに対して用いられるかについては見解が大きく2つに分かれる。一つの定義は、American Orthopaedic Foot and Ankle SocietyやInternational Society of Biomechanicsにより提唱されている“内がえしinversion/外がえしeversion”を前頭(冠状)面での運動frontal (coronal) plane motionとし、“回外supination/回内pronation”を前頭(冠状)面・矢状面・横断(水平)面の3平面での運動triplane motionとするものである。他方はKapandjiや日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会制定の関節可動域表示(以下、日整会関節可動域表示)による“内がえしinversion/外がえしeversion”を3平面での運動とし、“回外supination/回内pronation”を前頭(冠状)面での運動とする定義である。英語圏では前者の定義が用いられることがほとんどであり、後者の定義を採用している日本では文献の翻訳や引用をする際に、用語の混乱を生じる原因となっている。
この状況を解決すべく、日本整形外科学会学術用語委員会からの要請により日本足の外科学会第3次用語委員会で調査・検討を行った。
語源的にはsupinationはラテン語のsupino(仰向け、to bend or to lay backwards)に由来し、pronationもラテン語のprono(うつ伏せ、to bend forward)に由来する。前腕ではneutral zero starting positionから前腕軸が外方に回旋し、手部が仰向けになる動きは回外supinationと命名され、neutral zero positionから前腕軸が内方に回旋し、手部がうつ伏せになる動きは回内pronationと命名されている。一方、足関節・足部は前腕に比較して、neutral zero positionの状態ですでに下腿軸の内方への回旋と足関節の背屈をしている状態といえるが、このような状態から、足関節・足部が“仰向け”になる運動は、通常下腿軸が外方に回旋し、足関節・足部が底屈と内旋(内転)を伴う複合運動でなければ起こりえない。したがって、日本足の外科学会用語委員会では、底屈・内旋(内転)・内がえしからなる3平面での複合運動を回外supinationと定義し、“うつ伏せ”になる反対方向の背屈・外旋(外転)・外がえしからなる複合運動を回内pronationと定義した。これに従い、3平面での動きである足関節捻挫の肢位を表す用語は、“回外supination/回内pronation”と統一することを提案した。
日本足の外科学会用語委員会では、足関節・足部・趾の運動に関する国内外の論文を検索し、それらの用語を統一する目的で、「足関節・足部・趾の運動に関する用語案」を作成した。基本的には、横断(水平)面transverse (horizontal) plane、矢状面sagittal plane、前頭(冠状)面frontal (coronal) planeの3つの運動基本面を設定し、足関節・足部・趾の運動をその基本面上における動きとして表記している。本案はこれまで日本足の外科学会の幹事により校正が重ねられ、その最新バージョンが、日本足の外科学会ホームページ上(https://www.jssf.jp/)に公表されている。